ぽよメモ

レガシーシステム考古学専攻

あなたの知らない全国家計構造調査の世界

はじめに

これはあくあたん工房アドベントカレンダー2024 6日目の記事です。他の記事も是非ご覧下さい。

2024年9月、全国家計構造調査の対象世帯として選ばれたので調査への協力を依頼したいという旨の連絡を頂きました。無作為選出によって選ばれてしまって大変面倒な気持ちでいっぱい国のお役に立てると嬉しいので具体的に選ばれると何をやるのか書いておきます。

全国家計構造調査とは

www.stat.go.jp

「家計における消費、所得、資産及び負債の実態を総合的に把握し、世帯の所得分布及び消費の水準、構造等を全国的及び地域別に明らかにすることを目的とする調査」です。 統計法(平成19年法律第53号)に基づく基幹統計調査*1で、5年ごとに実施されており令和6年の調査で14回目だそうです。前回はコロナ禍前の2019年に行われたそうです。

調査の対象

基本的には単身世帯・外国人世帯を除く通常の世帯はほとんどが対象になり得ます。全国から無作為に90000世帯が選ばれるそうです。詳しくは下記ページの「4 調査の対象」をご覧下さい。

https://www.stat.go.jp/data/zenkokukakei/2024/cgaiyo.html

調査の内容

調査はいくつかの種類があるのですが、基本調査では以下の3種類を回答します。

  • 世帯票
    • 世帯の構成人数・扶養の有無、学歴、勤務先の種類など
    • 土地・住宅の所有の有無、住居の構造、住宅ローン返済の有無など
  • 年収・貯蓄等調査票
    • 世帯の構成員の勤め先からの収入・それ以外からの収入(例えば家賃収入など)、年金や給付金の受け取り額
    • 銀行口座の残高・株式や投資信託、債券、生命保険などの保険商品等
  • 家計簿
    • その世帯における口座の入出金や日々の支出を記録したもの
    • 「食費:○○円」のようなざっくりしたカテゴリ分けではなく、細かく「牛乳:○○円」「キャベツ 1/4:○○円」などと記録していく

世帯票と年収・貯蓄等調査票の2つだけを提出する簡易調査というものもあるそうです。

調査期間

2024/10〜2024/11の2ヶ月間実施されます。この期間の家計簿を記録して提出する必要があります。

回答方法

紙もしくはインターネットでの回答が可能で、調査員から紙で提出する場合の家計簿の冊子を渡されます(使わなくとも良い)。

調査のながれ

まず最初に、地域ごとに収集される必要があるという観点から住民票と居住実態が一致する人を対象とするため、実際に調査員が訪問して問題が無いことを確かめるようです。我が家にも一度調査員の方が来られました。確か暑い夏の日だったと思うのですが、炎天下に色んな家を回るなんて大変だなと思った覚えがあります。

次に実際に選定されましたよというお知らせの紙が届きます。総務省のなんか立派なヤツです。その後調査員が再度訪問し、詳しい説明を受け、回答のための備品が配布されました。実際に配布される書類のサンプルは以下のページからも見ることができます。我が家ではインターネット経由で提出すると言っていましたが、備品なのでと電卓やボールペン、メモ帳、紙で提出する用の家計簿などを多数いただき、無事紙ゴミとなりました。

www.stat.go.jp

実際に回答期間になるとインターネットで公開されている調査システムにログインし、まずは世帯票を回答します。MUIとおぼしきフレームワークで構成されたWebアプリケーションで、複数の設問が並んでいるので順番に回答して提出します。

世帯票の回答画面(設問は省略)

10月に入ると日々の支出を記録する期間が始まります。ここでは全ての支出・収入を細かく記録していきます。前述したように「食費:○○円」ではなく「牛乳:○○円」などのように細目まで付けて記録する必要があり、これまでクレジットカードの明細だけを見て家計簿を付けていた我が家ではあらゆるレシートをもらうことが義務づけられました*2

10月の家計簿における項目入力フォーム

このフォームを見ると分かるように、単に値段を記録するだけでは済みません。支払い方法や割引の有無・その割引額まで記載する必要があります。また、中古で購入するなどしたものについてはその旨を記述したり、診療代・検診代は分ける、歯科は別にするなどの必要もあります。記録の例示などを見たり問い合わせしながらこれらを埋めていくことになります。

更に、定期的に発生する光熱費・家賃や住宅ローン返済・携帯電話の通信料金などは別途自動引き落としという項目で入力が必要です。

自動引き落としの料金入力(項目はデフォルトでいくつか+自分で追加も可能)

また収入についても細かく記載が必要で、手取り額だけでなく額面いくらでそのうち手当と控除がどうなっているかなどまで記載します。

収入の入力画面(手当・控除は自分で項目追加も可能)

11月に入ると家計簿の回答項目が増え、購入先(スーパーとかコンビニとか)・購入地域(同市町村や県内・県外など)も追加で入力します。スクショ撮ろうと思ったら回答期間が終わってから入力画面は開けなくなってしまいました。

11月中旬になると年収・貯蓄等調査票に回答し、後は11月末まで家計簿を記録しきってフィニッシュです。最後にアンケートがあるのでそれも回答しました。

大変だったところ

家計簿大変すぎ

とにかくこれです。本当に大変で、消費の意欲をごっそり持って行かれました。「家計簿入れないといけなくなるから買うの辞めるか……」って思ったことが何度もあります。食費はまだしも、趣味にかけた費用などはこの期間明らかに減ったはずです。おそらく2ヶ月間でキーボードのパーツいくつかと、Factorio Space Ageしか趣味のものを買っていません。節約したい人はあらゆるものを家計簿に入れなければならないというレギュレーションを課してみると良いと思いました。

一応レシートを画像認識して入力する機能もありました。が、スーパーのレシートなど長尺でたくさんの項目が並び、品目名が中途半端になってしまうものが多いと誤認識が著しく、結局自分は手入力していました。自分のための家計簿なら多少入力タイトルに不備があっても許せますが、調査に回答するのに明らかに意味不明な品目を入力するのは良くないだろうと感じたためです。「地元野菜 ¥128」という項目を見てピーマンだと分かるのも、「HD キャラメル ¥228」を見てハーゲンダッツだと分かるのも自分がそれを買った記憶があるからなので、認識能力を上げてもこれは解消しなさそうです。

たまたまこれは回避したのですが、期間中に海外渡航していてもこの調査の例外にはならず、「滞在中のいずれかのタイミングのレートで日本円に換算した額を記入する」という対応が必要だそうです。もし海外行っていたらもっと大変な目に遭っていた……

同一世帯なら支出・収入を互いに把握しているという前提

うちは妻と二人の世帯なのですが、特にお互いの支出・収入には深く踏み込んでいません。年収としてだいたいどれくらいお互いが稼いでいるかや、どの程度投資や貯蓄に回しているかをざっくり感覚で知っているだけです。そのためお互いが日々いくら何にお金を費やしているかをこれまで知ることはありませんでした*3

大変困ったことに家計構造調査の回答Webアプリのログインユーザは世帯当たり1つです。お互いの支出などを入力するためにはIDとパスワードを共有して両方が入力するか、どちらかに伝えて入力してもらう必要があります。つまりどちらか片方は必ず相手の支出を全て知ってしまうことになります。

うちは1Password Familyに加入しているので、夫婦の共有領域にIDとパスワードを入れて管理することにしました。これで自分の出費も妻の出費も、品目単位で全て筒抜けになりました*4。また日々の支出だけでなく給与・貯蓄・株式や投資信託の額も1万円単位で全額把握してしまいました。

入力欄に「こづかい」などの項目があることからも、基本的にこの調査では

  • ある世帯の収入は一度全て回収・合算される
  • 「こづかい」という形で各人が自由に使える金額を再分配する
  • 残りを世帯全体のための収入として計上し、生活に必要な支出を賄う

みたいなモデルを標準としているように見えます。しかし、我が家では互いが独立した収入源を持ち、互いの支出入に口を出さないというこのモデルから大きく外れた状態になっています。お互い自分の収入をほとんど自由に取り扱っていますが、これはこづかいとは呼ばないでしょう。

このようなモデルであることから、自動引き落としの料金入力は個人単位ではなく世帯単位になっており、例えば携帯電話の通信料金やクレジットカード引き落としなど世帯構成員のそれぞれの口座で発生する支出イベントも回答欄は一つです。つまり二人の色んな支出をそこで合算して記入する必要があります。全体を把握・管理している人がいればその人が知っている額を入れるだけで済みますが、うちではお互いの口座の取引明細は見れません。口頭で伝えたり、先に入れたから合算して入れ直して等の依頼をしていました。収入の入力は構成員ごとにできるようになっているので、自動引き落としもそうなっていたら互いが好きなタイミングで入れられて良かったのにと思わずにはいられません。まぁ合算するだけなので、そうなってくれないと困ると言うほどではないです。

実は個人の収支を個別に収集する調査は「個人収支状況調査」として個別に存在するようなのですが、回答する側としてはもはや違いがイマイチ分からないというのが自分の感想です*5

統計局ホームページ/全国家計構造調査に関するQ&A(回答)

個人収支状況調査は、通常の家計調査では捉えきれていない「個人の判断で自由に使えるお金」の収支内容を、世帯員一人一人に配布する「個人収支簿」で調査します。

プライバシーへの配慮が微妙

まず大前提として家計構造調査の調査上知り得た秘密を漏洩させることは当然犯罪です。

www.stat.go.jp

統計法第41条では、調査の結果知り得た秘密は漏らしてはならないことが規定されており、これに違反した者に対する罰則が定められています (統計法第57条)。
 さらに、統計法第40条では、「この法律(地方公共団体の長その他の執行機関にあっては、この法律又は当該地方公共団体の条例)に特別の定めがある場合を除き、その行った統計調査の目的以外の目的のために、当該統計調査に係る調査票情報を自ら利用し、又は提供してはならない」と規定されています。
調査票は外部の人の目に触れないように厳重に保管され、集計が完了した後は溶解処分されます。

このように調査票を紙で提出する場合の破棄方法などには言及があるものの、Webアプリのシステムに関する言及を自分は見つけられませんでした。

レシート認識機能を使うとレシート画像がサーバに保存されるようなのですが、そういう説明はどこにも無かったと思いますし、明らかに調査対象で無いレシート画像そのもののデータの取り扱いが今後どうなるかの言及がありませんでした。問い合わせたところ「終了後削除する」という、まぁそうだろうねという回答だけ得られました。

また「代行入力」という機能があり、レシート画像を撮影してオペレータに代理で入力してもらう機能があるのですが、どこのどういう人に送られてその画像はどうなってみたいな説明が軽く探しても見つからなかったので使いませんでした*6

レシート画像には店舗名や日付などが含まれ居住地をある程度推測できるほか、購入したものから家族構成や年齢層まである程度把握できてしまいかねないもので、いくら統計法で守秘義務が課されているといってももう少し配慮が欲しかったところです。

良かったこと

特にないですが、強いて言うなら自分の求めるレベルの家計管理に細目まで含めた詳細な記帳は不要であることを実際に試して体感したのは良かったです。

これまでMoneyForwardとOsidOriにクレカと銀行口座の明細を食わせて、明細ごとにカテゴリ分けしたざっくり家計簿でやってきていました。時々異なるカテゴリの支出が一つの明細にまとまってしまうことがあり(例えばスーパーで食品と一緒にティッシュペーパーのような日用品を買ったなど)、これは過半数を占める支出カテゴリに設定していました。実際に細目まで記帳していくと全体に対してこのような出費は大抵誤差の範囲内程度であり、かかる労力の方がはるかに大きかったため今後も無視することにしました。

後はちゃんとインターネット回答でき、使っている限り深刻なバグらしきものには出くわさなかったのも良かったです。紙だったら耐えられていなかったと思います。ちゃんと go.jpサブドメインで提供されていたのもポイントが高かったです。

動作が死ぬほど遅いとかが途中で起きたり、ログイン出来るブラウザと出来ないブラウザがあったり、UIがスマホ特化でPCから使いづらいなどはありましたが政府が用意したWebアプリとしてはマシな部類でしょう。今後も日本政府にはIT関連がんばって欲しいです。

FAQ

Q. 面倒だから調査依頼が来たら無視してもいい?
A. 統計法第13条により家計構造調査は「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる」と規定されており、同法第61条で「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」には「五十万円以下の罰金に処する」と書かれています。自分からは以上です。

最後に

不満はだいたいアンケートにも書いたので、次の開催時には軽減されていると嬉しいなと思います。

また、家計構造調査など総務省統計局による調査を装った詐欺も発生しています。特に家計構造調査では収入や世帯構成などの情報を取得するため、そういった情報が欲しい悪い人のターゲットにされる可能性があります。政府の正規のWebサイトのみに情報を入力すること、尋ねてきた調査員には詳細を話さず、怪しいと思ったら自治体に相談するようにしましょう。調査員自らが調査内容の詳細を尋ねてくることはありません。

www.stat.go.jp


*1:特に重要な統計調査として法務大臣が指定したもの

*2:もらいわすれるとがんばって値段を思い出して埋めるしか無くなります。実際何度かセブンイレブンの公式サイトに救われたことがあります。

*3:クレジットカードの家族カードを渡しているので、妻が共有で使うこれ(と思われるもの)をamazonで決済したなとかはわかりますが、妻本人のカードの明細などは見たことがありません。

*4:これが原因で家庭内に不和が生じた家庭とかありそう……うちは特に何もありませんでした

*5:家計簿の調査では誰が使ったかがやや不明なのでその情報を収集したいのだと思うのですが、それなら最初から個人ごとに収拾して世帯で合算された方が良かったのではと思ってしまいます。

*6:使ってみたらあったのかもしれないですがそこまでは見ていません