これは何
ついに大学院情報工学専攻(修士)を修了してしまうため,何かポエムが書きたくなりました.ネットには研究室への怨嗟が溢れていて*1,大学院が楽しいとか(当たり前の人にとっては当たり前過ぎて)あんまり書いてないので,じゃあ自分で書いてみようという感じです. 実験系(ウェット)な人たちには「は?」と言われることが多々ありそうです.気をつけてお読みください.
また,僕自身は大学院から専攻を変えたため,あまり一般的な大学院生とは言いがたい可能性があります.専攻を変えた経緯は以下の過去記事を参照のこと.
完走した感想
大学院の2年間はあまりにも早く終わってしまい,あまり実感がありませんが,おおよそ楽しく充実した時間でした.「大学院進学やめとけばよかった」と考えたことは,おそらく一度も無いと思います.残念ながら(今のところ)目に見える実績が無く,研究活動として見たときには大失敗だった可能性もありますが,様々な面で成長を感じた2年間でした.特に修士論文は自分でテーマを決め執筆まで行ったことで,大きな自信となりました.就活も特に危なげなく終わり,4月からは東京で働きます.頑張っていくのでよろしくお願いします.
特にWeb系の一部では「大学院に行くよりさっさと働いた方がいい」という風潮があるように感じますが,コンピュータサイエンスの修士を修めることにはそれなりの意義があると思います.修士の価値は自分で決める,そういうことだと考えています.自分が修士に価値を感じることが出来たのは,ひとえに研究室のメンバー及び先生方のおかげです.ありがとうございました.研究室の今後のますますの発展を祈っています.
大学院の良かったところ
結局,どういう研究室に入るかによってこの辺りは大きく変わってくると思います.そういう意味では,「大学院の」というよりも「研究室の」良かったところですね.
- (卒業できれば)修士号が手に入る
- 研究室という空間を2年間フルに使える
- 研究について技術的なものからメンタル的なところまで相談できる相手が居る
- レベルが近いまたは上の相手が多い
- 純粋な興味ドリブンで好きなだけやっていい
興味があるからというだけの理由でこれだけ時間を好きに使って没頭できる機会はそう無いと思います.4回生ではあまりにも時間が短すぎ,できることが限られてしまう上,どうしても先生や先輩の言うことをはいはい聞くだけの存在になりがちです.自分主導で研究を進めることは,基本的には修士以降で初めて出来るような印象が強いです.とりあえずで進んできて良い場所では無いと思いますが,ちゃんと覚悟をしてきている人にとって少なくとも悪い場所にはなり得ないはずです.皆様,進学の方,いかがでしょうか.
やって良かったこと
この2年間,授業・自身の研究を除いて,やってみて良かったことを6つ取り上げたいと思います.そんなに奇抜なことはしていません.また,就活についても特に言及していません.分野によってあまりにも大きな差があり,参考にならないと考えたためです.
1. とにかく物を捨てる
この作業で僕の大学院生活はスタートしました.研究室というのは,よっぽど新興のところで無い限り,最低でも数年から数十年という年月が積もり積もった場所です.しかも大抵研究者は整理整頓が苦手です*2.そのため,学生の生活空間がどうでもいいもので溢れていることが多いです.先生の了解を得つつ,どんどん捨てていきました.
2~3年しかいない環境を整備するモチベーションが湧かない人の気持ちも理解出来ますが,綺麗にすると単純に周りから感謝されて気分が良いのでお得です.
2. とにかく掃除する
- 明確に掃除する時間が無い
- ゴミは限界まで溜める
- 水回りを誰も掃除したことがなく,臭い
- 掃除する気がない
など,特に男ばかりの研究室ではありがちな気がしています.率先してゴミを捨て,部屋を掃除しました. 他に,複雑なゴミの分別ルールについての周知や,なくなってきた消耗品の購入リクエストなども行っていました.これも単純に周りから感謝されて気分が良いのでお得です.
特に部屋の匂いはため込んだゴミの他に水回りなどが原因のことがあり,キッチンハイターで三角コーナーと排水溝を漂白・殺菌するだけで多少マシになります.
3. 細かい不満を設備投資で潰す
買って良かったものリストです.研究室で使って良かった物は以下の通りです.
- 短焦点プロジェクタ
- 10万円くらいだった
- 上から吊らなくても十分有用
- 空間を広く使えるようになる他,常にスクリーンの目の前に置いておくことでカジュアルに使えるように
- メタルラック
- サーバにしているマシンの置き場
- 高さを自由に変えられるので収納したいものを最適な形で仕舞える
- 多少マシなモニタ
- 椅子
- 古い物を捨てて新しいものにリプレース
- 座り心地が悪い/キャスターの滑りが悪いなどは地味にストレスなため
- 荷物置き用バスケット*4
- 明確に各自のカバンを置く場所が出来ると,なんとなく部屋が片付いて見える
- スタイルハンガー*5
- コートなどを椅子にかけている研究室におすすめ
- いつの間にかずり落ちて床に…とかならなくて良い感じ
- 大判のウェットティッシュ
- 机を拭いたりするのに雑巾はどんどん汚れてあまり衛生的ではない
- 使い捨てることが出来るウェットティッシュは掃除のハードルを下げる
- キッチンペーパー
- 食器用布巾は使い込まないと水を吸わない
- 研究室では洗濯もしづらいので不衛生……
- よく水を吸ってくれて使い捨てれるので便利
プロジェクタや4Kモニタ以外は比較的安価なものを並べたつもりです.ちなみに個人で買って良かったものは以下です.
- iPad Pro + Apple Pencil
- 圧倒的に捗る
- これ一台で論文を読んで校正もできる
- 論文を紙で読む時代は終わった
- Air Pods
- 研究室ではカジュアルに研究の話を振られたり,来客があったりするため,周囲の音が聞こえるイヤホンが便利だった
- 最初はAmbie Wirelessを使っていたが少し耳が痛いのが気になり売却
- USB-Cの給電アダプタ
- 移動する場所全てに置いておいた
- 充電器の持ち運びを減らせるのは楽
- 大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL
- ストレス解消や学生の交流に大変良い
- ちなみに負けるとストレスが溜まるので勝つことがストレス解消の秘訣*6
金は正義です.
4. コミュニケーションのハードルを下げる
そもそも弊研究室ではSlackを導入しており,メールなどよりはハードルが低かったです.未だにメーリングリストというところも多いようですが,正直メールは今の学生に馴染まないと思います.特に全体連絡に対して返事するべきかどうかとか,後から会話に参加する人がこれまでのやりとりを見れないとか……返事せずともリアクションで態度を表明でき,話題ごとに話す場所を分割できるSlackやDiscord,Microsoft Teamsなどの導入がおすすめです.そういったツールが導入されていても,DMやプライベートチャンネルがメインとなってしまうと効果は半減です.僕は積極的に研究のネタになりそうな内容や,アドバイス・質問等をSlackの公開チャンネルに投げることで,情報をオープンにし共有する文化の醸成を目指しました.完全に上手くいったとは言いがたいですが,まぁやらないよりは良かったかなと思っています.
オフラインでのコミュニケーションでも,後輩に積極的に話しかけたり,先生とカジュアルに話すところを周囲に見せたりなど,より話しかけやすい雰囲気を作ることを意識していました.積極的に各自が今の状況を(フォーマルな形ではなくカジュアルに)共有する雰囲気を作ることで,自分だけでなく周囲の人のガス抜きもできていたのではないかと考えています.楽しかったとは言っても研究がつらいことは多数あったため,気軽に愚痴を言えたり,どうするべきか相談できるというのは重要だったと感じました.
5. 研究相談に積極的に応じる
まず前提として弊ラボは学生数に対して先生が少なく,かつ教授が様々な事情で多忙であり,何もかもを教授に見てもらうという体制を取ることが難しいという実情がありました.そのため,以前から論文は一旦同期や先輩の校正を通してから先生に見せるというスキームがありました*7.研究の方針についても全て教授にお伺いを立てるのではなく,先輩と相談するなど学生間で方針を決め,ある程度進めながら詰まったら教授と話し合うといった進め方をしていました.とはいえ,自分のものでない研究に付き合う義務は特にないため,相談に乗る行為や校正は完全にボランティアです.今年はM2 7人+B4 4人という大人数が修論/卒論を執筆する関係上,容易にパンクすることが予想されたため,さっさと論文を書いて校正に回ることを決めていました.
結果として,研究方針の相談までは深く関われませんでしたが,考察に対する批評や,論文自体の書き方など多数の面で後輩/同期の執筆に関わりました.いくら専攻する分野(ソフトウェア工学)が同じとは言え各自の研究内容は大きく違うため,研究の内容理解からしっかりとする必要があり,様々な発見がありました.単純に複数本の論文を書いたようなものなので(?),お得です.一度で二度,三度美味しいみたいな感じです.ただし,余裕が無いと死んでしまうので計画的に早く終わらせましょう!!!
加えてドクターの先輩の研究相談に関わったりしたこともありました*8.これもドクターまで行く人が
- 日頃からどれくらい研究しているのか
- どのように見通しを立てて研究をしているのか
- うまく行っていないときにどうメンタルを保っているのか*9
など,身近で見て感じることが出来たのは大きかったです.自分にD進は向いていないなと分かったのも良かったですね.
6. 負債の返却
果たしてこれは返却できたのか新しい負債を増やしたのかまだ判断できませんが,とにかくこういうことをやっていました.
中でも,Wikiをesa.ioへ移行できたのが最も大きな進歩だったと思っています.それまでほとんど誰も書いてくれなかったWikiが1年間で数百記事以上に成長し,大きく貢献できたと感じています.もちろん他のメンバーの執筆を促進するために自分もたくさん書いたという面もあり,そのモチベーションは以下の記事にまとめています.
これから
さて,冒頭にも書いた通り,僕はこれから社会人として労働をやっていくことになります.修士卒という意味では,多くの人が自分と同じスタートラインに立っていると言えるかと思います.普通に研究したあの子も,死ぬほど研究して賞も取りまくった彼も,2年間遊んでいて卒論から進歩があんまり無かったあいつも,僕も,みんな同じ修士号です.単なる修士卒として埋没しないよう,自身の強みをさらに伸ばし,弱点を補っていきます.よろしくお願いします.